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名古屋高等裁判所 昭和46年(行コ)29号 判決 1973年11月30日

名古屋市中区東横町二丁目六六番地

控訴人

田島健昭

右訴訟代理人弁護士

奥村仁三

同市同区三の丸三丁目三番二号

被控訴人

名古屋中税務署長

福脇茂

右指定代理人

服部勝彦

成瀬章

鈴木栄

蒲谷暲

右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人の昭和四〇年分所得税につき昭和四三年二月六日付でした更正処分および過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和四五年一月二二日付裁決で一部取り消された後のもの)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の提出・援用・認否は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同じである(ただし、原判決二枚目表九行目から一〇行目にかけて「同四〇年度分の所得税」とあるのを「同四〇年分の所得税」と訂正する。)から、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  借入金で購入した不動産をその後売却した場合、右借入金のために支払つた利息は、社会通念上いわゆる必要経費に当たるから、譲渡所得の算定にあたり所得税法三三条三項所定の取得費としてこれを控除すべきである。

これを雑所得の場合とで区別し、雑所得の場合は控除しうるが譲渡所得の場合は控除し得ないと解するのは相当でない。

二  控訴人は、今池の土地(本件土地(A))の取得時期は昭和四八年三月二八日であると主張していたが、右は真実に反しかつ錯誤に出たものであるからこれを撤回する。

すなわち、右土地は訴外柴田志づ、田中里子、吉川マサの三名の共有であつたが、控訴人は、昭和三八年三月三〇日吉川から、同年七月二日田中から、同年七月五日柴田から、売買により各持分を譲り受けたものである。

三  控訴人は、今池の土地を購入するため昭和三八年三月二九日訴外田島儀兵衛から金二〇〇〇万円を借り受けたのであるが、右訴外人はこれを取引銀行である大垣共立銀行から借り入れて所定の利息を支払つたものであり、したがつて控訴人も原審主張のとおり日歩二銭六厘の利息を右訴外人に支払つたことは当然である。しかして、控訴人は昭和四〇年三月一日右土地を訴外神谷重吉に売り渡した。そうすると、少なくとも昭和三八年七月五日から昭和四〇年三月一日まで、土地購入代金一六六一万八九〇〇円に対する日歩二銭六厘の割合による利息金二五一万三一七〇円は、資産の取得費に当たるものとして譲渡所得金額の計算上控除すべきのである。

また、天白の土地(本件土地(B))の購入代金三三〇万円につき、原判決は借入れの事実が明らかでないとしているが、田島儀兵衛が諸銀行から借り受けて控訴人に右の金員を貸し付けたことは明らかである。ただ、右儀兵衛自身も不動産を取り扱つており銀行から終始融資を受けていたためどの資金が控訴人に貸与されたものかは明瞭でないが、貸与の事実は明らかであつて、儀兵衛の銀行からの借受けの日と控訴人の土地購入の日とが合致しないからいつて、ただちに借受けの事実がなかつたものと即断することはできない。

(被控訴人の主張)

一  譲渡所得の基因たる非事業用固定資産を取得するために借り入れた資金の利子が所得税法三三条三項所定の取得費に算入されるかどうかについては、所得税基本通達三八-七の「当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額に限り、当該固定資産の取得費に算入する。」旨の取扱・解釈が支持さるべきである。他方、所得税基本通達四七-二一によれば、たな卸資産の取得のために要した借入金の利子については、その支出年分の所得金額計算上の必要経費に算入するか必要経費算入をせずにそのたな卸資産の取得価額に算入するかを納税者の選択に委ねる取扱いである。

本件土地はたな卸資産またはこれに準ずる資産に当たらず、右土地の売却益は譲渡所得に区分さるべきものである。したがつて、右後者の通達は妥当せず、前者の通達によつて取り扱わるべきものである。

二  今池の土地の取得時期に開する控訴人の主張二は自白の撒回に当たるから異議がある。

三  控訴人が訴外田島儀兵衛から今池の土地の取得のため金二〇〇〇万円、天白の土地の取得のため金三三〇万円を借り受けたという主張はいずれも虚偽のものである。すなわち、控訴人の主張によれば、控訴人は右訴外人が大垣共立銀行から借り入れた金員のうちから、金二〇〇〇万円を昭和三八年三月二九日に、金三三〇万円を昭和三八年四月五日に、それぞれ借り受けたというのであるから、甲第九号証記載の借入金のうち右に該当すると考えられるのは、昭和三八年二月一五日の金一二〇〇万円および同年三月二九日の金一五〇〇万円である。しかるに、右の各借入金は、大垣共立銀行が右訴外人に同銀行菊井町支店の用地の購入仲介の依頼をした際、その購入資金として預託したものを形式上貸付金として経理したもので、無利息であり、かつ本件土地の取得資金とは一切開係のないものである。

(証拠開係)

控訴代理人は、甲第九号証、同第一〇号証の一ないし四、同第一一、第一二号証を提出し、当審証人田島儀兵衛の証言を援用し、なお原審において提出した甲第八号証は撤回すると述べた。

被控訴代理人は、甲第九号証および同第一〇号証の三の成立は不知、同第一〇号証の一、二、四および同第一一、第一二号証の成立は認める。なお甲第八号証の撤回に異議はないと述べた。

理由

当裁判所もまた控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補足するほか、原判決理由(更正決定により更正されたもの)に説示するところと同じであるから、これを引用する。

一  原判決八枚目表一行目に「抗弁2の(一)」とあるのを「抗弁2の(一)(ただし、本件土地(A)の買受の日時を除く。)」と改める。

二  原判決一〇枚目裏四行目から一一枚目表末行までを次のとおり改める。

控訴人は、不動産の購入に要した借入金のための支払利息は、譲渡所得の算定にあたり資産の取得費として控除すべきであると主張する。しかして、控訴人の主張によれば、控訴人は本件土地(A)(今池の土地)の買入代金にあてるため昭和三八年三月二九日訴外田島儀兵衛から同人が銀行から借り受けた金二〇〇〇万円を借用し、昭和四〇年三月一日まで日歩二銭六厘の割合による利息金三五五万一六〇〇円を支払つたというのである。そして、原審(第一回)および当審における証人田島儀兵衛の証言により成立の認められる甲第三号証の一、二、原審証人安井一夫の証言により成立の認められる甲第三号証の三および右田島証人の証言中には右主張に副うものがある。

しかしながら、成立に争いない甲第九号証、乙第一五証および当審証人田島儀兵衛の証言の一部によれば、大垣共立銀行大曾根支店は、昭和三八年二月一五日から昭和四〇年一一月二〇日までの間訴外田島儀兵衛に対し、手形貸付として九口(合計金五一五〇万円)、証書貸付として四口(合計金六〇〇〇万円)の貸付を行なつたこと、右のうち控訴人主張の借受金にてられたとみうるのは、その主張の借受日時および金額(昭和三八年三月二九日に金二〇〇〇万円を借り受けたという。)に照らし、昭和三八年二月一五日付証書貸付金一二〇〇万円および同年三月二九日付証書貸付金一五〇〇万円の二口であること、しかして、右の二口については、大垣共立銀行が右訴外人に対し同銀行菊井支店の用地の購入方の斡旋を依頼し、その購入資金にあてるため右訴外人に交付したものを貸出金として処理したものであり、利息も徴していないこと、以上の事実を認めることができる。右事実によれば、訴外田島儀兵衛が昭和三八年三月二九日当時大垣共立銀行の支出にかかる二七〇〇万円の金員を所持ないし保管していたことはありうるにしても、右金員は右訴外人が同銀行のため土地購入代金にあてるべく使途を定められて預つていたものであり、これを同銀行に返還するにあたつても利息を付する必要のなかつたものであることが明らかである。したがつて、右の金員がそのまま控訴人の本件土地購入代金にあてるため右訴外人から控訴人に対して貸与されたとか、あるいはそれについて利息を徴した等の事実は、きわめてその存在が疑わしいものといわなければならない。右訴外人と控訴人とが実親子の関係にあることを考えれば、その間で利息の支払いを約することの不自然なことは一そう明らかである。

なお、前顕甲第三号証の一によれば、控訴人主張の借受金二〇〇〇万円の中には訴外田島儀兵衛が東海銀行大須支店から借り受けた金員も含まれている旨の記載が存するが、成立に争いない乙第一六号証によれば、昭和三八年三月二九日現在の同銀行の同訴外人に対する貸付金残高は金一九五万円であることが認められ、右は控訴人主張の前記金額にとうてい足りないことが明らかである。したがつて、控訴人が本件土地の講入代金にあてるため訴外田島儀兵衛から借用したと主張する二〇〇〇万円の金員については、東海銀行大須支店から右訴人が借り受けたものであるとはただちに認め難いものといわなけれはならない。

結局前掲甲第三号証の一ないし三および出島証人の証言はにわかに採用し難いものである。

以上のとおり、控訴人主張の訴外田島儀兵衛の銀行借入金についてこれが控訴人に対し本件土地購入代金にあてるため貸与されたものであるとか、あるいはそれについて控訴人が利息を支払つた等の事実は未だこれを認め難いものである。

よつて、その余の点について判断するまでもなく控訴人の前示主張は採用できない。

三  原判決一三枚目裏六行目から一四枚目裏七行目までを次のとおり改める。

控訴人はここにおいても、不動産の購入に要した借入金のための支払利息は譲渡所得の算定にあたり資産の取得費として控除すべきであると主張するが、控訴人の主張によれば、控訴人は、本件土地(B)(天白の土地)を含む二五三坪の土地の買入代金にあてるため昭和三八年四月五日訴外田島儀兵衛から同人が銀行から借り受けた金三三〇万円を借用し、返済ずみまで日歩二銭六厘の割合による利息金二〇万四八七三円を支払つたというのである。そして、原審(第一回)ならびに当審における証人田島儀兵衛の証言により成立の認められる甲第六号証および前顕甲第三号証の三ならびに右証言中には右主張に副うものがある。

しかしながら、大垣共立銀行の右訴外人に対する貸付金のうち控訴人の主張する右借受金にあてられたとみうるのは、前記の昭和三八年二月一五日付証書貸付金一二〇〇万円および同年三月二九日付証書貸付金一五〇〇万円の二口であるところ、これをもつて右訴外人から控訴人に対し本件土地購入代金にあてるため貸与されたとか、あるいはそれにつき控訴人が利息を支払つた等の事実が認め難いことは、既に述べたところから明らかである。また、控訴人主張の借受金が、右訴外人の東海銀行大須支店からの借入金をもつてこれにあてられたものと認め難いことも前述したところから明らかである。

結局、前記甲第三号証の三、同第六号証および田島証人の証言はにわかに採用し難いものである。

よつて、その余の点について判断するまでもなく控訴人の前示主張は採用できない。

以上の次第で、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当である。

よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田正武 裁判官 宮本聖司 裁判官 新村正人)

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